冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
 私は紹介された治験コーディネーターの方から話を聞くだけで、そこに桐人さんが深く関わっていたなんて考えもしなかった。臨床試験は蘭先生が持ってきた話なのだと思い込んでいたし。

 恩人は先生だけじゃなかったんだ……。じんわりと感動が押し寄せて、胸が熱くなる。

「そんな大事なこと、どうして今まで教えてくれなかったんですか?」
「俺が提案したんだ、なんて恩着せがましくて言えないだろう。君にとっての恩人は蘭先生だったんだし」
「う……」

 そう言われてみればごもっともだ。知らなかったとはいえ、蚊帳の外にしてしまって申し訳ない……。仏頂面の桐人さん、ちょっぴり拗ねているし。

 ああ、だからなのか。蘭先生とのことでケンカになって、私が『彼は私の足を守ってくれた唯一の恩人なんですから』と言った時、切なげな表情をしていたのは。桐人さんの心情を考えると複雑だっただろうな。

 納得していると、彼は「それに」と話を続ける。

 人工血管はあの後の臨床試験でトラブルがあり、蘭先生との確執が生まれてしまったのだそう。ふたりがいつも敵対してしまうのはそういう背景があったからなのだと、再び納得した。

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