冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
 芸人さながらのツッコミをした和奏の隣で、静かに私たちの話を聞いていた社長秘書の(れい)さんもグラスを片手に苦笑している。

「クリスマスは期待しちゃうよねぇ。私も思い出すわ」
「社長と付き合い始めたのがクリスマスでしたっけ。いいなぁ~」

 以前聞いたなれそめでは、それはそれは極甘な夜を過ごしたそうなので、今の私にとっては羨ましくて仕方ない。

 しょんぼりする私に対し、和奏は鮭のテリーヌにフォークをぶすっと刺した。切りっぱなしボブの黒髪がさらさらと揺れ、やや猫目の美人顔は見るからに不満げだ。

「そんな生殺し状態で手出さへんって、まさかドM? 男にとってはここぞ!って夜やったやんか、絶対。浮かれたムードを利用してベッドインするのが、クリスマスのカップルの定石やないんかい」
「それ旦那さんにそのまま言ってあげなよ」

 麗さんが冗談混じりに言うと、和奏は「それは無理です」と真顔で即答した。さすがの彼女も本人には言えないらしい。

 和奏は好き嫌いがはっきりしていてズバッとものを言う、竹を割ったような性格の美人さん。見た目と関西弁のギャップが面白い。

 麗さんは私たちの四歳年上で、真面目で仕事ができる上にとっても可愛いお姉さんだ。そしてなんと、イケメンでやり手のわが社のトップ、不破(ふわ)社長と結婚している。美男美女で公私共に信頼し合っている、理想の夫婦だ。

< 26 / 233 >

この作品をシェア

pagetop