冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
 委託先で働いている私たちは、本社にいる社長秘書の麗さんとは本来ならほとんど接点がない。しかし、わが社でかなり重要な取引先であるシェーレとの打ち合わせは不破社長自ら行っていて、彼女も頻繁に同行してくるので従業員とも接する機会が多々ある。

 さらに私と和奏は調理師なので、定期的に本社での研修もある。年の近い私たちは、あちこちで顔を合わせているうちにいつの間にか親しくなっていたのだった。

 和奏は入社した時からの仲だし、麗さんは同じ社長夫人。話も気も合うふたりにだけはなんでも相談できるので、今も遠慮なく本音をこぼしている。

「私も〝さすがに今夜は進展するんじゃ⁉〟って期待したんですけど……なんであと一歩進まないんだろ。私の身体が貧相なせい?」

 お皿と箸を持った状態で自分の身体を見下ろす。レディーススーツ越しだとあまりわからないが、胸は大きくないしなんとなくメリハリのない身体で、色気を感じないのは自覚している。

 でも、麗さんはこんな時にも優しくフォローしてくれる。

「好きな子だったら、そんなの関係ないと思うよ。キスはするんだし、欲情してないわけじゃなさそうよね」
「となると考えられるんは……ED?」

 さっきから小声で話しているけれど、和奏はさらに声を潜めてそう言った。

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