冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
「さっき不破社長の奥様と話したんです。お互いの家庭の話になって、それで思ったんですけど……私たちまだちゃんと話してなかったですよね。子供のこと」

 なるべく自然に、なにげない調子で話を振る。ご両親に挨拶をした時、跡取りの話を少しされたくらいで、私たち自身は子供について話していなかったのは本当だ。

「桐人さんは将来、子供欲しいですか?」

 緊張しつつ問いかけ、ハンドルに手をかける姿も洗練されている彼をちらりと見やる。前を向いたまま一瞬ぴくりと反応し、その横顔はすぐに柔らかにほころんだ。

「ああ、もちろん欲しいよ。子供ができたら、今よりさらに幸せになれるはすだ」

 予想以上に好意的な反応がもらえて、同じ意見だったことに少しほっとする。

「でも、今はまだその時ではないと思ってる。もっと秋華とふたりの時間を過ごしたい」

 真剣な瞳がこちらに向くと同時に言われ、はっとした。

 まだふたりでいたい……か。確かに、私も今すぐ子供が欲しいわけではない。彼が行為をしない理由のひとつはそれなのかも。

 でも少なくとも、子供を望んでいるならいつかは必ず抱き合う日は来るだろう。そう考えると焦らなくてもいいのかなと思えて、「そうですよね」と笑みを返した。

 桐人さんの考えを少し聞けただけでも、気持ちが軽くなった。完全に不安が消えたわけではないけれど。

 運転席から安心させるように手を重ねられる。大きなぬくもりに包まれて、彼の愛は確かなのだから信じようと自然に思えた。


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