冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
愛妻家、あるいはストーカー
まもなくシェーレは年末休業に入ったものの、私たち社食の従業員は厨房の大掃除をしなくてはならない。一日がかりで床や調理機器を磨いたり、いらないものを処分して棚を拭いたりと、いつ保健所の監査が入ってもいいくらいに綺麗にした。
仕事納めをして、清々しい気分で食堂を出る。和奏はこれから推しのグループのライブがあるとかで、終わると一目散に帰っていったので、私はひとりマイペースに帰宅する。
エレベーターホールに向かっていくと、自販機があるコーナーでひとりの女性と出くわした。もう休みに入ったはずのシェーレの社員、白鳥絢だ。
「あれ? 絢」
「あら、秋華。お疲れ~」
彼女も同時に私に気づき、エキゾチックな顔に笑みを作って手を振った。もう来年まで会うことはないと思っていたのに。
「シェーレはもう休みに入ったんじゃないの?」
「そうなんだけど、私はやり残したことがあって来てたの。やっぱり年越す前に片づけちゃいたいじゃん」
「だね。お疲れ様」
高校時代から今も、絢と話しているといつの間にか彼女の自慢話になっていることが多いので、今日もさらっと話を終わらせることにする。
さっさと退散しようと、笑顔を向けて歩き出そうとした時、絢がわざとらしい調子で言う。