冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
「な、なんで八影社長? 社食に来る時にちょっとしゃべるくらいで、仲いいってほどじゃ」
「その時がさ、なーんか他の人とは違うなって感じたの。密かに付き合ってたりするんじゃないかな……っていう、女の勘」
「ないない! ないです!」

 ぶんぶんと首を振って全否定してしまった。付き合っているんじゃなくて結婚しているから嘘ではない……と、心の中で苦しい言い訳をして。

 嗅覚が鋭すぎる絢にじーっと見つめられ、冷や汗が流れる。しばし怪しんでいた彼女だが、急にコロッと変わって笑顔になった。

「だよねぇ。あんなにハイスぺな八影社長が、食堂の調理員とだなんてありえないか~」

 なんかけなされている気がする。いや、確実にけなしているな。

 自分に自信があるのはいいことなのだが、彼女は常に一番でありたいという野心を露わにしていて、こちらが見下されているように感じる。だから苦手なのだ。

 口の端を引きつらせる私などお構いなしで、彼女は自販機のボタンを押してスマホをかざしながら饒舌に話し続ける。

「でも羨ましい、仕事以外で話せるの。私は仕事でしか褒めてもらえないからなぁ。社長って実はそういう頑張りもちゃんと見ててくれてね、私がずっと希望してた開発に移れたのも社長のお口添えがあったかららしいの。滅多にないことなのよ」
「へぇ~……」

 もう帰っていいかな。完全にマウント取ってきてるし。

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