冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
 見覚えのあるメモ用紙が数枚入っている。以前、私が彼への伝言を書いてテーブルの上に置いておいたものだ。

 基本、いつも一緒に食事をして同じ時間に眠るのだが、ごく稀に仕事で彼の帰りが遅くなる日がある。そういう時に、〝冷蔵庫にサラダが入ってます〟とか〝先に寝ますね。おやすみなさい〟とか、本当にたわいないひと言を書いたもの。

 読んだら捨てて構わないのに、こんなに大事そうに取ってあるとは。ちょっとだけほっこりして口元が緩んだ。

 やっぱり私もなにかしてあげたくなる。せっかくだから、普段あまり掃除しなさそうなところを綺麗にしておこうかな。

 ハンディモップを持ってきて、棚の上の埃を取り除いていく。丁寧にやるよう心がけていたものの、本を取り出そうとした時に手が滑って落としてしまった。

 あちゃー、とあたふたしつつ落としたものを拾おうとした時、玄関のほうでドアが開く音がした。

 あれっ、桐人さん? もう帰ってきたんだ!

 予定より早く会えるだけで嬉しくなると同時に、早く片づけようと再び手を伸ばす。すると、本の中にひとつだけ違うものが混ざっていた。

「ん……? アルバム?」

 薄めでシンプルな表紙のそれは、おそらくフォトアルバムだろう。写真もちゃんと保存していて几帳面だな、と思いながら手に取った瞬間、ドアの向こうからご本人が登場した。

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