冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
「桐人さん! おかえりなさい」
「ただいま。……それ」

 お互い笑顔で挨拶したものの、私が本やアルバムを持っているのを見た彼は、すうっと無表情になっていく。機嫌を損ねてしまっただろうか。

「ごめんなさい、掃除してたら落としちゃって。すぐ片づけま──」
「中、見た?」

 慌てて棚に戻そうとするも、妙に威圧感のある声で遮られた。どこか暗い陰影を含む瞳でこちらを見つめる彼に、なんとも言えない違和感を抱く。「いえ」と首を横に振ると、彼の表情にはいつもの笑みが戻った。

「そうか、手伝うよ。綺麗にしてくれてありがとう」

 部屋に入ってきた彼は、特に怒ったような様子もなく私の手から本たちを取る。

 なんだろう、一瞬桐人さんが怖かった気が……。私が勝手に見ようとしたと思ったのかな。あの中に、見られたくない写真でも入っているのだろうか。

 まあ、昔の写真だったら嫌なものもあるかもしれない。桐人さんはもういつも通りだし、あまり触れないでおこう。

 片づけ終わった彼が、私の背中に優しく手を当てて出るように促す。私は本棚に戻されたフォトアルバムを一瞥し、書斎を後にした。


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