冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
 そしてなんと言っても、桐人さんの激レアな着物姿がたまらない。彼も銀鼠色の着物に羽織を合わせた姿なのだが、なにせ顔がいいのでめちゃくちゃ様になっていて、ドラマの撮影ですか?と言いたくなる。

 毎年和装で行くと聞いた時は、着物なんて成人式以来だしハードル高い……と気後れしていたけれど、こんな彼の姿を間近で堪能できるなんて最高だと、今は感謝しかない。

 しかし当の本人は不服そうに腕を組み、若干表情がうんざりしている。

「毎年総出で来るこの習慣、いい加減にやめにしませんか」
「なにを言ってる。家族がそろう唯一の日だぞ。これをやめたらふたりとも帰ってこなくなるだろう」

 まるで時代劇に出てきそうな、威厳のあるお義父様が眉をひそめて一蹴した。シェーレの会長である彼は情に流されず妥協しない性格で、桐人さんの冷徹なところはきっとお義父様譲りだろう。

 そして今彼が口にした〝ふたり〟というのは、桐人さんともうひとり、四歳下の弟さんのこと。着物姿のイケメン兄弟が並んでいるので、周りの女性たちが目をハートにしているのがわかる。

 シェーレで薬事部の部長として経験を積んでいる最中の頼久(よりひさ)さんは、桐人さんと顔は似ているが愛想がよく、性格も無邪気で明るい。こちらはお義母様似だなという感じで、今もニコニコしながら言葉を返す。

< 39 / 233 >

この作品をシェア

pagetop