冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
 内心のろけつつ参拝する人たちの列に並ぶと、桐人さんはお義父様に声をかけられて仕事の話をし始めた。お正月も頭の中は休みなしのふたりに対し、お義母様と頼久さんは私に身体を寄せてこっそり話しかけてくる。

「秋華さんと会ってからだと思うけど、桐人は本当に変わったわ。あんなふうに優しく笑うところ、大人になってから見てないもの」
「だね。結婚させてほしいって自分から頭下げるとは……っていうか、誰に対しても冷たい兄さんがそもそも恋愛結婚するってのが衝撃的だった。兄さんが執着するのは仕事だけだと思ってたから」

 にんまりしながらそう言われ、私は身を縮めて照れ笑いを浮かべた。

 私にだけは違うのだと思うと、彼の特別な人になれているのだと感じられて嬉しい。桐人さんに対するご家族のイメージも、社員の皆さん方と大きな違いはないみたいだ。

「桐人さんって、昔から仕事人間だったんですか?」
「うん。ああでも、引くほど仕事熱心になったのは、兄さんも部長になった頃からかな。きっかけはわからないけど急にストイックになって、仕事のためならなんでもするし、情報の収集癖とか分析欲みたいなのもすごいよ。そういう意味ではちょっと変態チックかも」
「変態……」

 無邪気に笑う頼久さんの言葉のチョイスに、私は苦笑を漏らしてしまったけれど、言い得て妙という感じはする。

< 42 / 233 >

この作品をシェア

pagetop