冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
 現在の治療薬であるステロイドは、副作用が起こるという大きな問題がある。それをクリアした新たな薬ができれば、日本国内だけじゃなく世界からも注目を浴びるだろう。

 そのためにどうするのかはわからないけれど、私の健康状態を観察したり、ゆくゆくは治験をさせたりして様々なデータを取るのも、家族なら都合がいいんじゃないだろうか。

『仕事のためならなんでもするし、情報の収集癖とか分析欲みたいなのもすごいよ』

 頼久さんの言う通りなら、桐人さんが研究のために結婚するのはきっと容易い。『私たち』というのも、彼の会社を意味するのではないか。

 私を抱かないのも、愛があるわけじゃないから──?

「秋華、気をつけて。段差がある」

 ついぼうっとしてしまっていた私は、手を取られて我に返った。目線を上げると優しい表情の彼がいる。急激に胸が苦しくなるのは、きっと帯のせいじゃない。

 この手はこんなに温かくて、どんな時も守ってくれているのに。その瞳も、私だけを見つめて微笑んでくれるのに……。

 私たちを結ぶのは、ただの愛じゃないのかもしれない。芽生えた疑惑に心が支配されていかないように、私は彼の手をぎゅっと握り返した。


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