冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
 私は特別メニューのわさび醤油ステーキをふたりのトレーに乗せながら、マスクの下で苦笑する。

 異世界人か。確かに、頭の中どうなってるんだろうと思うほど頭脳明晰だし、あの美貌は国宝級だ。庶民とは別格のオーラを纏っているので、皆が一歩引いてしまうのは間違いない。

「でも、仕事に対しては誰より情熱的じゃない? 八影社長じゃなかったら、シェーレは成長しないかも」

 トレーを持って席へ向かっていくふたりが残した言葉に、私は深く共感した。

 日本の医療技術を向上させるため、誰かの健康を守るために妥協しない社長の熱意には本当に尊敬している。あそこまでストイックにできる人はきっと多くないだろう。

 ただ、彼女たちの会話にひとつだけ共感できないことがあるけれど……。

 しばらくして私の前にやってきた社長を見上げ、マスクでほとんど表情は見えていないけれど笑顔で挨拶しようとした、その時。

「お疲れ様ですっ!」

 社長の隣に、ぴったりくっつくくらいの勢いで女性社員がやってきた。社長の次に、やや距離を開けて気弱そうな男性社員が続いていたが、彼女が「ちょっとごめんなさい」と声をかけてしれっと割り込んできたのを、私は知っている。

 美人だけれど気の強そうな顔立ちの彼女は、高校の同級生でもある白鳥(しらとり) (あや)だ。身長百五十六センチの私より頭ひとつ分ほど背が大きく、スタイル抜群の彼女は、セミロングのウェットヘアもよく似合っていてモデルのよう。

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