冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
 病院が混んでいたのもあって、午後三時過ぎにやっと帰宅したやよいはぐったりしていた。うっ滞を治すには腸を動かすことが大事なので、とにかく牧草を食べてほしいのだが、まだ時間がかかりそう。

 気になってなかなかそばを離れられない私は、しばし悩んでスマホを手にした。複雑な心境で、桐人さんへのメッセージを打つ。

 やよいが心配なのももちろんあるが、もう少し彼と距離を置いておきたい。愛がない疑惑に加え、和奏から彼の謎の行動について聞いたら、なんだか今夜は帰る気になれないのだ。

 ひとまずやよいが心配だからという理由と、明日の仕事に必要な荷物を取りに行く旨を伝える。すると桐人さんから電話がかかってきて、『必要なものを教えてくれれば、俺が届けるよ』と申し出てくれた。

 とてもありがたいけれど、わざわざ荷物を届けるためだけに来させるのは申し訳ない。そう言って断ったものの、『大丈夫だから甘えてくれ』と押し切られてしまった。

 午後六時、コートに黒のハイネックニットを合わせたカジュアルな私服姿の彼がやってきた。顔を見ると、やっぱり好きだという想いが込み上げてくる。

「桐人さん、本当にすみません。これだけのために」
「俺がこうしたかったんだからいいんだよ。それより、やよいちゃんの具合はどう?」

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