冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました

「あなたたちは今日から仕事なのね」
「うん、そう。絢は実家には帰った？　家、わりと近くだったよね」
「帰ったわよ。今日は秋華に会いたくて出てきたの」

　高校の時に同じ方面の電車に乗っていたのを思い出して話題を振ってみたものの、彼女の意味深な言葉にキョトンとした。

　休日に会いに来るほどの用事ってなに？と、頭の中をハテナマークでいっぱいになる私に、絢は「ちょっと来て」と言い、歩道の端にあるベンチに座る。すでに薄暗く、寒さも厳しいけれどお構いなしらしい。

　なんとなく胸騒ぎがするも、とりあえず従うことにする。仕事帰り風の人たちが通り過ぎていく中、私も腰を下ろした瞬間、絢の顔からすっと笑みが消えた。

「秋華、私に嘘ついたでしょう」
「えっ……？」

　急に声色も冷淡なものに変わり、妙な不気味さを感じてぞっとする。嘘って、まさか。

「八影社長と同じマンションに暮らしてるじゃない。彼の車に乗るところだって見たわ。どう考えても、ただの社長と従業員っていう関係じゃないわよね。これでもまだ、なにもないって言える？」

　そんなに目撃されていたの!?　結構気をつけていたつもりだったのに……！