冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
 今しがたの攻撃的な彼女を見ていれば、悪気がなかったとは思い難い。けれど、最初は本当に私たちのことをただ探っているだけだったのが、本人も気づかないうちにエスカレートしていたのかもしれない。

 そして桐人さんは、和奏が言ったあの日、私の後をつける絢を見張っていたということだろうか。私を守るために。

 誤解だったのだとわかって、罪悪感と安堵が入り混じる。彼は今も、私を護衛するように片腕でしっかりと抱く。

「あなたがなにをしようと、私が秋華以外の女性を愛することはありえません」

 初めて家族以外の人の前で堂々と宣言する彼に、こんな状況なのにときめいてしまった。この言葉は建て前なんかではないと信じたい。

 絢は絶望の淵に突き落とされたような表情で、声も出ない様子だ。ほんの少し同情しつつも、今後私たちの仲を引っかき回されたくもないのではっきり言っておくことにする。

 「絢」と呼びかけると、彼女の目が忌々しそうにゆっくりこちらを向く。

「私たち、ただ付き合ってるんじゃなくて結婚してるの。そう簡単には別れないから」

 虚ろだった目がみるみる見開かれる。「けっ……結婚!?」と叫んだ彼女は、あんぐりと口を開けたままへなへなとベンチに腰を下ろした。さすがに結婚しているとは思っていなかったのだろう。

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