冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました

　いっけない、彼が今日なにを頼むかはなんとなくわかっていたから、つい……！

「あ、えっと……こう見えてエスパーなんです！」

　開き直ってあからさまな冗談を言うと、彼は少し顔を背けて口元に片手を当てた。今、噴き出しそうになったよね？と私のほうが笑ってしまう。

　しかし、彼の隣からじとっとした視線を感じてぎくりとした。

　こんなたわいないやり取りも、絢は気に食わないらしい。〝あんたの存在は消していたのに〟とでも言いたげな彼女は、次の瞬間コロッと笑顔に変わる。

「私も同じもので」
「は、はい」

　目が笑っていない彼女の注文を、私はマスクの下で口の端を引きつらせて承った。すぐにもうひとつ包み焼きを用意し始める私の耳に、少し恥じらうような絢の声が聞こえてくる。

「あの、社長……今夜はなにかご予定がありますか？」

　大胆なお誘いに思わず反応して振り向くと、すでに席へ向かおうとした社長が動きを止める。

「ええ。大事な食事会が」

　迷わず答えた彼が、一瞬意味深な視線を私に向けてきた。氷のような瞳がその瞬間だけ溶けるのがわかり、ドキッと胸が鳴る。