冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました
 シェーレでは従来の画質の劣化を完璧になくしたMRIへ改良しようと試みており、概ねいいのだがまだ鮮明に写っていない部分がある。

 目指している域には達していないと判断してさらに改良を頼むと、頼久はあからさまに無念そうな顔で肩を落とした。

「くっそ~またダメか……。今回はいけると思ったんだけどな」
「甘い。もっと医学的な知識も頭に入れておけ」
「兄さんが異常なんだって。もう医者になれるレベルでしょ」

 すっかり兄弟として接する俺たちだが、仕事の件については真面目に細かく話し合う。頼久はまだ経験を積んでいる最中だが、頭がよく要領もいいのでゆくゆくは俺の右腕になってくれるだろう。

 話を詰めると、彼は部長の顔に戻って背筋を伸ばす。

「わかりました。今話した点は技術部に伝えておきます。稲森さん、お取り込み中失礼しました」
「いいえ。どんどんやり合ってください」

 頼久は応接ソファに座っているもうひとりの男性とも和やかに言葉を交わして、社長室を出ていった。実は今、この部屋にいたのは俺を含めて三人だったのである。

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