冷徹御曹司の旦那様が、「君のためなら死ねる」と言い出しました

 旧姓・稲森(いなもり)秋華は、約二カ月前に八影秋華になった。

 現在二十六歳の私は、専門学校を卒業して今の委託給食会社『パーフェクト・マネジメント』に入ったのだが、当時は別の食堂で働いていた。今年の三月に辞令が出てシェーレに異動になり、桐人さんと出会ったのだ。

 彼は職場内でも当然ながら有名なので、私もすぐに顔と名前を覚えた。最初はもちろん近寄りがたく、若くてめちゃくちゃ美形な社長だ……と美術品を眺めるような気持ちで見ているだけだったのに。

 シェーレで働き始めて間もない頃、私が体調を崩したのがきっかけで急展開することになる。

 私は二十歳の頃、全身の血管に炎症を起こす血管炎という原因不明の病気を発症した。それがタイミング悪く、就職が決まった後に発症してしまい入院を余儀なくされたため、社会人一年目はまともに働くことができなかった。

 しかし、パーフェクト・マネジメントの若き社長がとても理解のある方で、就職を取り消すことなく治療を終えるまで待っていてくれたおかげで今がある。彼には本当に感謝してもしきれない。

 血管炎は難病に指定されているものが多く、長い投薬治療が必要になるものの、炎症はいずれ治まることが多いし重症例も減っているらしい。私の場合は手術もしたけれど、今は免疫抑制剤という薬を飲んでいればほとんど症状が出ない状態にまでなっている。

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