君は恋に眠って
 手に取ろうとしたカップは、熱すぎて触れることができなかった。


 立ち上る湯気によれば飲み頃なのだけれど、さすがに淹れたては厳しい。仕方なくコーヒーは暫く冷ますことにして、ふと、窓の外を見た。


 今年の夏も、暑かった。夏の気温は、毎年史上最高気温を更新していく。もうこの国の──この世界の夏が、うだるように暑い以外ありえないことくらい分かりきっている。外に出るだけで全身が熱気に包まれ、(むしば)むような陽光に肌を焼かれ、じんわりと汗が滲む。嫌気が差すほど眩しい太陽は、そんなこちらの気も知らずに、まさにギラギラなんて擬態語がぴったりくる。


 今年だってそうだった。自転車を押しているだけで額には汗がいくつも玉を結んで、ほんの僅かな距離に息は上がって、あまりにも苛烈な熱線には目が焼かれてしまいそうだった。ついこの間まで陽気な春だったのに、いつの間にか鬱陶しいほどの雨と湿気に苛まれて、気付いたらこの有様だ、とぼやいた。
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