君は恋に眠って
 一方で、先輩は目を丸くした。


「桐椰?」

「桐椰遼です。……どうかしました?」

「……いや」


 間違いなくどうかしたはずなのに、先輩は軽くかぶりを振ると、にっこり笑って俺に向き直った。答える気はないらしい。


「何しに来てんの? わざわざ京都から。デートってわけでもなさそうだし」

「余計なお世話です。幼馴染の兄貴が浪速大なんですよ、普通に仲良いし、会いに来るついでに遊びに」

「なるほどね。幼馴染くんは大阪じゃないの?」

「や、僕は普段は東京で。兄のとこに遊びに来たんです」

「あぁ、そういう。仲良いな」

「で、先輩こそ何しにわざわざ?」


 先輩も出身は関東圏で、高校までの友達も関西に来てる人はほとんどいないと聞いたことがあった。


「俺も先輩に会いにきた。高校のときの先輩がいるからさ」

「一人で?」

「残念、俺は彼女と一緒です」


 したり顔を見て、聞かなければよかったと思った。先輩と彼女の仲の良さは折り紙付き。彼女さんは大学が違うのになぜそんなことを知ってるかといえば、モテる先輩に他大の女子が言い寄らないのはそのせいだという噂までセットで聞いたから。


「じゃ、その彼女は? ラブラブと噂の相手を見てみたいんですけど」

「トイレ行ってる」

「なんでこんな離れたとこで待ってるんですか」


 図書館内には他大生以外入れないだろうし、きっとトイレはメインストリートを挟んで反対側にあった建物にあるものを使用することになっているはずだ。

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