君は恋に眠って
「共通棟の入口で待ってたんだけど、お前が見えたから。わざわざ追いかけてきたんだよ」

「よく分かりましたね、この人混みで」

「お前ら背高いから目立つんだよ」

「別に先輩と変わらないでしょ」


 平均よりは少し大きいかもしれないけど、と付け加えて、図書館内から出てくる人に視線を遣る。学祭期間であまり人の出入りがない上に、よく知った顔だ、遠目でもすぐに目当ての人だと分かった。遼もすぐ視線を向ける。


「じゃ、来たみたいなんで」

「あぁ、幼馴染くんのお兄さん?」

「そうですけど……」


 先輩が悪戯っぽく笑うので「何か変なとこでも?」と顔で訊ねた。別に、幼馴染の兄の見た目は変から程遠い。そうニヤニヤ笑う理由などないはずだ、が。


「悪いなー、待たせちゃって」

「ん。てか、兄貴のサークルの屋台見つけたよ。まだ買ってないけど……」


 遼の台詞の語尾がしぼんでいく。理由は明白だ、目の前で初対面のはずの二人が顔を見合わせているのだから。


「……彼方《かなた》兄さん?」

「……お前何してんの?」


 そして、幼馴染《おとうと》でもなく俺でもなく、幼馴染の兄が、雪斗先輩を見て唖然とした声を出す。


「何って、学祭に遊びに」

「いやそうじゃなくて腕のほう」


 俺の肩に回されている腕のことだ。


「だって後輩ですもん、僕の」

「……マジ?」

「マジです」

「え、え、マジか!」


 彼方兄さんの顔は驚きと一緒に嬉しそうに変わり、なぜか俺の背中がバシバシと叩かれた。痛い。
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