君は恋に眠って

「いやー、世間って狭いな。まさか雪斗と総くんが先輩後輩とは思わなかった」

「だね。地元が近いってことは知ってたけど、まさか共通の知り合いまで、しかも普通に仲が良い知り合いがいるとか」

「それ。てかアイツ誰と来てんだろ、友達かな」

「いや、彼女と来てるってどや顔してた」

「マジ? 俺も会いたかった……」

「お前にだけは彼女会わせたくねーと思うけどな」


 女とくれば雌犬でも口説く勢いだ、その気持ちは分かる。彼方兄さんは心外そうに「えー、なんでだよ」と口を尖らせるが、自分の胸に手を当てずとも分かるはずだ。


「で、後輩のとこ顔出すんだろ。とっとと焼き鳥買おうぜ」

「無粋だな、弟よ。もっと学祭を楽しめ」

「別に、楽しんでるけど」

「例えばそこにミニスカポリスがいるだろ?」

「だったら何だっていうんだよ! お前マジでいい加減にしろよ!!」


 一に女子、二に女子、三に女子とはこのこと。憤慨する遼に引きずられるようにして焼き鳥の屋台へ向かう彼方兄さんは、それでもやっぱり懲りずに女の子から声を掛けられる度に立ち止まった。


 サークルの屋台の前に来たって、態度は同じ。後輩だという女子たちから黄色い声で誘われて、へらへらしながら俺達のぶんまで焼き鳥買って、食べるかどうか分からない鯛焼きも勝って、お釣りは要らないとお札を置いていく。後輩だから可愛がるのか、相手が女子だからなのか、はたまた単に気前がいいのか、よく分からないけれど、どうせ二つ目の理由が当てはまる気がした。
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