君は恋に眠って

「……絶対分かってないじゃん」

「え?」

「さっきの話。博愛主義は厳禁だよっていう」

「あぁ、それな。さすがの俺もこの年になれば理解した、今の彼女は本気や」


 気が緩み始めたのか、後輩と話していたことの延長か、彼方兄さんの口調は中途半端なままだった。


「今までも全部本気だって言ってたじゃん」

「んー、そのつもりだったんだけど」


 でも、すぐに昔からの喋り方に戻る。


「もしかしたら今までのって愛情だけで恋情じゃなかったのかもって思った」

「なんだそれ」


 次から次へと彼女ができるのに、付き合った期間の最短記録は片手で数えられる日数、それでも「本当に好きだったんだけどなぁ」が口癖だった。実際、軽薄だけどいい加減な人ではないから、本当に好きではあるんだろうけど、どうも博愛の域を出てないんだろうな、とはたからみて思ってはいた。


「やー、なんかさ、好きなんだけどさ。別に他の女の子のことと同じ好きだなって」


 何をいまさら言ってんだコイツ、と白い目を向けてしまった。他の女の子に向ける好きと同じ好きを彼女に向けてるっておかしいだろ、誰がどう考えたってそれ恋じゃないだろ、と。


「付き合ってないとキスとかしようとか思わないし、しないし、だから彼女のことだけ好きって整理してたんだけどさ」

「それただの理性じゃん」

「そうなんだよ」


 アンタ自分が何歳か分かってんのか、とやっぱり冷たい目を向け続ける羽目になる。中学生のほうがまだマシなレベルまで恋愛の自覚症状がある。
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