君は恋に眠って
「俺、独占欲とかないタイプだと思ってたんだよねー」
「まぁ、今までなさそうだったよね」
「今までの彼女の中で、今の彼女だけは、他の男に振り向かれるの嫌だなーって思った」
焼き鳥の串をビニール袋に入れ、今度は鯛焼きを取り出して頬張りながら、彼方兄さんは呟くように続けた。
「今まで思ったことなかったんだけどね。別に、他にいい男がいるのは仕方ないし、それで選ぶのは自由だって思ってた」
「全く恋じゃないよね、それ」
「総くんは独占欲強そうじゃん、俺はそういうタイプじゃないんだと思ってたの」
他の男の話をされても笑って頷けて、他の男と遊びに行っても気にならなくて、他の男のもとへ走っても引き留める気にはならない。そんなのは独占欲があるとかないとかじゃなくて、相手に興味がないだけだろうと、この人の恋愛を見ていて思っていた。
「俺ねー、生まれて初めて告白したんだ」
「は?」
「生まれてこのかた告白されたことしかなかったんだけど」
何を莫迦なことを言い出したんだと、やっぱり呆れた目を向けようとしたけれど、思いの外、彼方兄さんが真面目な顔をしていたので、やめた。
「今の彼女だけは、うかうかしてる間に他の男が告白したらどーしよって思った。誰か別のヤツの彼女になったら、俺と一緒にご飯食べてくれなくなるんだろうなとか、俺は誰かと同じじゃなくて次になるんだろうなとか。そんなことを思ったわけですよ」
「……彼方兄さん、初恋まだだったんだ」
「ううん、二回目」