君は恋に眠って
今までの彼女の中でって言ったじゃん、と返そうとして、口を噤んだ。初恋の相手と付き合っていないのなら、今までの彼女に独占欲が芽生えなくて、今の彼女が初めてその感情の芽生えた彼女だとしても、矛盾はないから。
「まー、結局、俺ってずっと初恋引き摺ってたのかもね」
「……引き摺ってたから、新しい恋をしたくなくて、適当に付き合ってたって?」
「別に、そこまでは言わないけど。あの子のこと好きだったなぁって気持ちがずっと忘れられなかったんだよなぁ、多分。あの子のことが、本当に堪らなく好きだった。一生好きじゃんこんなのって思ってた」
最初で最後の恋だと思ってたんだ、と、幼馴染の兄は照れ臭そうに笑った。ロマンチストに見えるのに、そんなクサイ台詞を自分が言うことになるなんて思ってもみなかった、そんな笑い方だった。
「でも、それが普通なんだって思ってた。初恋だから特別なだけで、俺の恋は愛情を注ぐような付き合い方をすることなんだろうなって思ってた」
「じゃ、彼方兄さんは今の彼女には恋したの?」
「うん、愛情注ぐとか呑気なこと言ってられなかった。付き合ってくれるまでめちゃくちゃに無様に追いかけた。なりふり構わず」
「へぇ、彼方兄さんが」
いつでも女の子には追いかけられる側で、へらへら笑いながらそれを受け入れるだけだったこの人が。