君は恋に眠って

「だからさ、俺の恋って今の彼女が二回目なんだろうなって」

「でも今の感じだと、初恋はまだ引き摺ってるんじゃないの?」

「いやぁ、そういうわけじゃないよ。こんなに初恋のこと想えるのは、もう初恋が想い出だからだよ」


 想い出になるのは、過ぎ去ったものだけだ。その意味では、彼方兄さんはもう初恋は過去だという。


「でも、初恋の想い出にはずっと恋できるかなぁ」

「想い出に?」


 どうやって、想い出に恋をするんだよ。鼻で笑ったのに、彼方兄さんは気を悪くする素振りなどなく、メインストリートのほうへ顔を向ける。


「総くんは一回生だから、まだ何も思わないだろうけどさ。例えばこのキャンパスなんて、俺にとっては青春の全てが詰まってるわけですよ。一回生の頃は学祭でパイロットのコスプレして女の子ナンパしたなーとか」

「ろくでもない青春じゃん」

「いやほんとに。英語の一限遅れそうになって走ったとか、期末試験の日なのに開始時刻に目が覚めたとか。酒飲んだ後に友達とここに来て夜中のキャンパスを無意味に歩いたとか、講義室で今の彼女に手酷くフラれたこととか。本当、アホみたいにくだらないことだらけのこのキャンパスが、来年卒業する俺にとってはすげー懐かしいのよ」


 そうなること自体は、頭では理解できた。大学生活四年間を過ごした場所は、きっといい想い出の場所になる。

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