君は恋に眠って
でも、それは高校と変わらないような気もした。高校だって楽しかった、くだらないことだらけの青春も送った。だったら、今更上書きされる青春なんてないような気がした。
「そういう想い出をなぞるとき、なんていうか、凄く嬉しいような、哀しいような気持ちになるんだよ。あの時ここであんなことがあったな、って思うと、あの時の感情も思い出すような気がするし、でも結局思い出す限度でしか感じられないような気もするし……」
想い出に恋はできるんだよ、と彼方兄さんは諭すように繰り返した。
「こんなに大好きな場所だと、嫌なことも嫌なこととしては思い出せないんだよ。さっき言った、嬉しいような哀しいような、なんとも切ない気持ちだけ」
「……盲目的に?」
「そ。だから、あの頃に戻りたいって、めちゃくちゃ思うんだよなぁ」
それは勉強から逃げたい気持ちもあるんじゃないの、と茶化すと、それはマジでそうだわ、と笑われた。
「何の話してたんだっけ。……あぁ、本当に初恋の子のことが大好きだったんだって話か」
「うん、想い出がどうとか」
「そうそう。あの子と一緒に過ごした日々が大好きだった。だから、あの頃を想い出すのは、なんていうか、堪らなく胸が締め付けられるね」
「……ふぅん」
「でも、そんだけ」
初恋がいかに自分の中で大きいものだったか雄弁に語ったくせに、彼方兄さんはその一言に尽きさせようとした。