君は恋に眠って
「あの頃の想い出はすごく愛しいなとか、あの子って今頃どうしてるかなって思うけど、まぁ、そんだけ。例えばさ、ほら、あの時見た銀杏ってすごく綺麗だったなって思うし、すごく感動したんだよなって思うんだけど、結局、今感動するのは今見てる銀杏で、あの時の銀杏じゃないんだよ」
ザァ、と、少し強い風が吹いて、黄色い両翼の輪郭がぼやける。まだ散るには早い銀杏は、ゆらゆらと優しく体を揺らすだけだった。
「ま、初恋は特別だってのもあるんだろうけどね」
「……そうだね」
「そういえば総くんの初恋っていつ? 総くん昔から顔綺麗だったし、足速かったし、モテただろ。苦い思い出なんてないだろうなぁ」
「中学のときだね。好きだなぁって思ってたら、アイツに告白してたよ」
「……なんかごめん」
漸く戻ってきた遼を指差しながら答えると、彼方兄さんは一瞬でばつの悪そうな顔になった。