君は恋に眠って
それから、メインストリートをもう一往復して、彼方兄さんはさっさと別れの挨拶を切り出した。
「もう戻るの?」
「お兄さんは受験生なんですよ、総くん」
「だから彼方兄さんの弟になった覚えはないんだよね」
「細かいこというなよ。じゃ、楽しんでけよ」
「ん。まぁ俺らももうすぐ帰ると思う」
「もうメインストリートは見たしね」
「そっか。じゃ、気を付けて、またおいで」
彼方兄さんが立ち去った後、俺達もすぐにキャンパスを後にすることにした。来た道を戻ろうとすれば、夕日のような太陽が見えた。まだ一番日が高い時間帯であるはずなのに、柔らかくて温かみのある日差しは、この季節特有だ。
「お前、この後どうすんの?」
「別に今日一日はやることないし、夕方くらいまでは付き合ってよ」
「夕飯は?」
「お前がいいならいいけど、彼方兄さんは? 一緒に食べないの?」
「さー、食べるんだったらさっき言ったと思うんだよな。だからいんじゃね」
「あぁ、そういう。確かにね」
じゃあ一緒に食べようか、そう結論付けたせいで、夕方までだらだらとコーヒーを飲み、夕飯には遼のお気に入りだというインドカレーに連れていかれた。遊びに来たときは昼でも夜でも必ず寄るというそこは、ひたすらにインド映画の流れる小ぢんまりした場所だった。