君は恋に眠って

「昼は?」

「食べてない。どうせ学祭でつまむかなって思って」

「そりゃそうだな。兄貴のサークルが鯛焼きと焼き鳥やってるって」

「なんでそんな二つもやってんの? 俺のサークル、タピオカジュースしか出さないよ。あの原価くそ安いやつ」

「んな夢ないこと言うなよ」

「ていうか、今日結構寒いよね。もう少し暖かい恰好すればよかったかな」


 店の中に入ってすっかり忘れてしまっていたけど、木枯(こが)らしでも吹いていそうな天気だ。窓の外を見るだけでぶるっと震えてしまった。


「俺もそのくらい暖かい恰好すればよかったな」

「なんだよ、貸さねーぞ」

「トレンチ持ってるし、そもそもプルオーバータイプのパーカー見て貸せなんて言うわけないだろ。どういう発想なの、それ」


 元々待ち合わせ場所でしかなかったので、二十分かそこらで席は立った。外に出るとやっぱり寒くて、ジャケットのポケットに手を突っ込みながら体を縮こまらせた。


「浪速《なにわ》大まで、歩いてどのくらい?」

「十五分くらいじゃね」

「十五分……。なんでうちの大学といい、最寄駅がそんなに遠いんだよ」


 しかも、時間を潰していたカフェは駅から見て西口側だったのに、浪速大学の場所は逆ときた。どうやら駅を挟んで東西に分かれているらしく、俺達がいた西口側からは商店街の中を通って駅を迂回しなければ大学へは行けない。挙句、駅を迂回するとなれば当然踏切を越えなければならず、運悪く遮断機の下りる音が聞こえてきた。まだ二、三分しか歩いてないのにもう寒くなってきた、早く暖まりたい、そんなことを考えながら立ち止まる。
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