君は恋に眠って

「電車乗ってるときから思ってたけど、日差しくらいしか変わるものがなさそう」

「そうだなぁ……山のほうは行ってないもんな」


 「修学旅行で来たのは十二月だったし、行ったのはUSJだったし」と言われて、そういえば二年前も関西には来たんだった、と思い出した。住み始めてからはすっかり我が物顔だったけれど、ついこの間までここは旅行先だったんだ。


「ま、普段京都に住んでるヤツからしたら何もねぇのかもなぁ」

「そうだねぇ……。(りょう)が住んでるとこは銀杏並木が綺麗なんじゃない? ほら、駅の正面」


 昔行ったことがあるので、(おさななじみ)の大学周辺は知っていた。


「あぁ、うん。春は桜がめちゃくちゃ綺麗だったし、今は秋が満開って感じ」

「大学のキャンパス内がそうなってるのは分かるけど、町全体っていうか、大学周辺までそうなってるのはいいよね。季節の移ろいを目で見れるっていうのは心を穏やかにする」

「何お前、病んでんの?」

「なんでだよ。俺が四季気にしちゃ悪い?」

「お前基本引きこもり体質じゃん、掛布団の厚さで季節計ってんだろ」

「お前、俺をそんな無粋な生き物だと十年近く思ってたの? 心外なんだけど」


 どこからがキャンパスなのか、山との境界も分からずに歩き進めて、漸く学祭の門をくぐった。そこから更にもう少し歩くと、視界に黄色がちらつき始める。


「あそこからメインストリート。学祭の屋台は全部そこだって」

「あぁ、そこがど真ん中なんだ」


 どうりで、綺麗だと思った──。思わずそうつぶやいた。
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