君は恋に眠って
赤褐色のレンガが敷き詰められたメインストリート。頭上の青に近い空にはいわし雲が広がり、夏とは違う、優しいコントラストを生んでいる。それなのに、それとは裏腹に、メインストリートには両翼を広げるのは、鮮やかな黄色の銀杏。
大阪はあんまり景色変わらないね、なんて先程の陰口は撤回することにした。文句なしに綺麗な景色だった。
そういえば、浪速大学の校章って銀杏なんだっけ。なんてことを思ったのも束の間、メインストリートに立ち並ぶ屋台に目を奪われてしまい、人混みを掻き分けるように歩きながら、早速食べ物を物色し始めてしまう。
「温かい飲み物ないかな。寒い」
「あ、ぜんざいあるじゃん」
「甘いなー……まぁいいか、喉乾いてるわけじゃないし」
テーブルの上には碁笥が置いてあって、黒い碁石が入っているかと思えば、ちらほらと白い碁石も混ざっていた。ぜんざいに見立てているというわけだ。お陰で囲碁部の屋台なんだとすぐ分かった。
「あー、美味しそう……俺も買おうかな……」
「買う? 俺、多分全部は要らないから、適当に分けようと思ってたんだけど」
「あ、それいいな。そうしようぜ」
碁笥の手前には、雨風を防ぐためにビニール袋に包まれた手作りのポスターがあって、何組かのカップルの絵と「カップルは五十円引き」との文字が描いてあった。確かに、このご時世、カップルの絵が一種類というわけにはいかない。そんなことを考えながら、定価のぜんざいを受け取った。