パーフェクト・フィグ
患者氏名:荒井ベイビー、生後3日、女児
疾患:ファロー四徴症、先天性横隔膜ヘルニア
予定術式:心室中隔欠損閉鎖術、肺動脈狭窄解除術
まだ名前すら登録されていない、
生まれたばかりの子ども。
低酸素により青白く、
体中に点滴の管が刺さった新生児が、
ベッドで眠ったまま手術室に入室した。
「とりあえず、いつも通りやってみろ」
「はい!」
子どもの心臓手術は、大人に比べて
かなりシビアだ。
そのためスタッフの誰もが緊張し、
気合と責任感のもとに動く。
各々のプロたちが集い、
生まれたての子どもを救うのだ。
小児心臓の手術につける麻酔科医は少ない。
無論、それは看護師も同じだ。
誰でもできる手術ではない。
雅俊は復帰して早々こんな大手術に
つくとは思っていなかったため、
些か油断していたことを後悔した。
だが、一先ずは松島にやらせてみることにした。
その間に自分は、
昔の感覚を思い出す必要がある。
「新生児の挿管経験は?」
「1、2回です」
「じゃあできる」
「スパルタ~…」
松島の手元を見つつも、
雅俊は当たりを見渡した。
ME(臨床工学技士)の増山は見覚えがあるが、
他の若手や看護師はあまり記憶にない。
だが、年を重ねているところを見ると、
恐らく昔からいるベテランだろう。
人の顔と名前を覚えるのは
昔から苦手だった。