パーフェクト・フィグ
東都南大学病院は、この辺りで唯一
小児心臓外科が存在する病院だ。
昔からいる、やせ型の梶木教授が、
子どもを手術台に移動させている。
この梶木教授の腕を頼りに、
全国から心臓疾患を持った子どもが
この病院にやってくる。
だが、後から入ってきた女医には
雅俊は見覚えがなかった。
「あの女医は?」
無事挿管を終えた松島が、
人工呼吸器に搭載されたパソコンに
諸々記載しながら言った。
「伊東先生です。
去年からうちに来たんですよ」
教授より後から来ては、
子どもをちらっと見て
すぐにルーペを装着。
器械出し看護師に一声かけると、
すぐに手洗いに行ってしまった。
その後ろ姿を見届けて、
松島が言った。
「自由人なんですって」
「教授に消毒させて、
先に手洗いに行くのか」
梶木が子どもの体を
温めた消毒薬で拭いている。
普通は下っ端が手術の準備を済ませている間に
教授や先輩が先に手洗いにいくものだが。
「あんまり話してるの見たことないんですよ、
誰も」
「誰も?」
「誰も」
梶木が「手、洗ってきまーす」と言って
ルーペをつけながら部屋を出て行った。