青の葉の、向かう明日。
「…大丈夫」


温かな体温と共にその声は降って来た。


「おい、何してんだ、アイツら」

「え、何あれ?」


野次馬が集まって来てるっぽい。

もう…最悪だ。

こんな姿見られるくらいなら、本当にいっそ…


「見てるなら先生呼んでこいよ!バカか!彼女苦しがってるだろーがっ!」


…あ。

消え、た。

周りの音が何も聞こえない。

それに、なんだろう。

あったかい…。

えっと、もしかして…

私、

バックハグ状態、なの?

置かれている状況が良く分からなくてパニックになりかけたけど、それよりも伝わる温度が安心感を与えてくれて、私は正気を取り戻した。

私今…

清澄くんの腕の中、だ。


「鳴海さん、大丈夫だから。何があってもおれがいる。絶対、助けにくるから。側に…いるから」

「あり…がとう」


初めて、だった。

彼に初めて、ありがとうを言った。

なぜだろう。

自然と口から出てしまった。

どんな理由からでもいい。

助けてほしい時、

優しく抱きしめてくれて、

ただそれだけで…

嬉しかった。

嬉しかった、んだ、私。


「なんて呼べばいい?」


この期に及んで何を言っているのだろう。

そんなの今、どうだっていいはず、なのに。

そんなどうでもいいことさえ、

いや、どうでもいいことこそ、

なんか大切に思える。

当たり前の、

他愛無い会話。

私はゆっくりと口を開いた。


「好きに呼んでください。私…どうでもいいので」

「んじゃあ……」


彼の口から溢れたのは私の秘密の断片だった。
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