青の先で、笑っていて。
しばらく…まあ、時間にして1時間くらいそうしていただろうか。

いくらなんでもそろそろ腰をあげないと帰りのバスがなくなると思い(いやもう半ば諦めていたのだけれど)、手に力を込めた、その時だった。


「なんて顔してんだよ、あんた」


頭上からいきなり声が降ってきて、慌てて見上げると…目が合った。

この人…


「きれい…」

「…は?」


思わず思ったことをそのまま発してしまった。

相手はポカンとした顔をしている。

でも、許してほしい。

だって、悪いのは私じゃないもの。

私の瞳を奪う、そっちが悪い。


「あのさ」

「はい」


面倒そうな顔をしながらも話しかけてくる。

気にしなければいいのに。

黙って通り過ぎれば良かったのに。

わざわざ塾から遠い方の公園を選んだのに。

なのに、なぜ?

なんでそんなにも真っ直ぐ視線を向けてくるの?

なんでここにいるの?

なんで、見つけちゃったの?

私の胸の疑問になんて答えてくれるわけもなく、彼は続ける。


「家、どこ?」

「え?」


もしかしてナンパかと思ったけど、相手はバカかとでも言いたげな顔でこちらを睨んできたのでそれはないと秒で分かった。

とはいえ、こんな夜更けに年頃の女子の実家の所在地を聞くなど只者ではないことは明らかなので私はだんまりを決め込んだ。

しかし、相手は私の前を動こうとしなかった。

沈黙が続くことおよそ3分。

仕方がないので、私が動くことにした。


「そこ、どいてください」


ドスのきいた私の地声に驚いたのか、相手が反射的に避ける。

私はその隙に…とブランコから腰を上げ、足を動かした。


「帰れるの?」


相手は歩き出した私の背中に言葉をぶつけてくる。

足音は続かない。

追ってはこないつもりらしい。

ならば、無視で良いか。

私はずんずんと先を急ぐ。

ちらりと腕時計で時間を確認する。

あーあ、やってしまったよ…。

やはり残念ながら終バスの時間はとうに過ぎていた。

恐らくおねむモードの父を鬼電で起こして迎えに来てもらうしかないだろう。

スクバからスマホを取り出す。

家族との連絡以外は使わなくなった、なんの装飾も施されていない無機質なスマホ…。

まるで今の私みたいだ。

などと思い、ちょっと目を離した隙に私の手がふわっと軽くなった。

ん?

え?

…あ。

先程のおじゃま虫の羽音が隣から聞こえていた。


「…返してください」

「なんだ、声、出るじゃん」

「いいから…返して。父に電話するんです」

「やっぱりバス無いんだ」

「だからなんですか?あなたには関係ないでしょう?これ以上関わらないでください」


そう言ったのに相手は全く聞く耳を持たず、なんなら私の目の前に立ち塞がって進行を防いだ。

一体何がしたいの?

いかにも病んでます感ある女子がいたからいじりたくなったとか、そんな感じ?

どういう理由であれ、関わってほしくない。

放っておいてほしい。

私に関わったってロクなことない。

今の私は…たぶん、疫病神だから。

むしろ、あなたまで…

あなたのその…なんでも見通せそうな透き通ったきれいな瞳を、

月と見間違えるくらいの美しい金髪まで、

汚してしまいそうで、

怖い…。

そう、怖いんだ。
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