タイトル未定。
「入らないのか?」


突然背後から声が聞こえてビクッとした。

恐る恐る振り返ると、やはり声の主は彼だった。


「おはよ、有ちゃん」

「…やめてください」


私はそれだけ言うと自らの手でドアを開け、大股で自分の席まで歩いて来ると急いで着席した。

波風立てず、静かに過ごす。

何を言われても、

何をされても、

無視。

動じない。

関わらない。

そうやって残り4ヶ月ほどの学校生活を乗り越えるんだ。

そう心に誓ったのに、

南京錠をかけたのに、

彼はまたノックする。


「有ちゃんが嫌なら、なんて呼べばいい?」


わざわざ私の席まで来て話しかける。

私は受験勉強をすべく、スクバから参考書を取り出した。

至近距離で国語の漢文を読み始める。


「無視はなしって昨日言ったはずだけど」

「昨日は送ってくださり、ありがとうございました。でも、今日からは赤の他人なので」

「赤の他人…」


言いながら彼はひょいっと参考書を奪った。

無視したいのに、出来ない。

どうしてこんな厄介な人に捕まっちゃったの?

勘弁してよ…。


「なわけないから」


参考書の代わりに彼の顔が近づく。

見間違いなんかじゃない。

やっぱりこの人の瞳はきれいだ。

透き通って美しい。

まるで海みたいだ。

なんて見惚れてしまっていると、彼が笑った。

笑うとなんだか、子犬みたい。

いつもは余裕ぶって大人っぽいのに、

こういう時だけ幼さを演出してくる。

なんなの、この人…。

末恐ろしいよ。


「ねぇ、何してんの、あの2人」

「鳴海さんが清澄くんのこと誑かしたんじゃない?あんな酷いことして明ちゃんのこと病院送りにしたくせに。さいってー」

「ってか、鳴海さんて江波くんに振られたばっかだよね。それでもう次の男って…ヤバくない?」

「しかもよりにもよって清澄くんとか。ただの面食いかよ」


あーあ、最悪…。

最悪過ぎるよ。

こうなることが目に見えてたから関わらないでって言ったのに。

それなのに、どうして…。

どうして、あなたは…。


唇を噛む。

痛い、

痛い、よ。

でも、涙は引っ込む。

大丈夫。

もう、なんともない。

大丈夫、

大丈夫、だから。


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