タイトル未定。
「あのさ」


聞き覚えのない低音が教室中に妙に響いて、私も驚きのあまり顔を上げた。

視界の真ん中に彼がいる。

清澄朔がいる。

校内一モテるのに、女子から告白されても秒で断る超冷酷男子と専らの噂で、同じクラスになって2年経とうとしているというのにほとんど話したこともなかった彼が、いる。

彼は周りの目なんて気にしてない。

静寂を突き破るように彼は声を張り上げた。


「おれ、信じてないから」

「信じるも何も、皆見たよね?学校に救急車来たの。明ちゃんは運ばれたんだよ。あいつに突き飛ばされて怪我して。なのに、信じてないって…」


あの日、あの時、あの場所であったこと。

思い出すと胸が張り裂けそうになる。

してしまったことの罪の重さに押し潰されそうになる。

私だって、認めている。

悪いのは、私、だって。

それなのに、

なんで?

どうして、あなたは…

信じてない、なんて言うの?


彼の背を見つめていると、彼が一瞬だけこちらを振り返るようにして、視線が交わった。

彼はふっと笑ってまた前を向いた。


「おれは、鳴海有の口から話を聞くまで、なんも信じない。信じるのは…鳴海有だけだから」


女子たちからブーイングが飛び交う。

私を肯定したからって清澄くんにはなんの得もないのに。

それどころか、傷ついてしまうのに。

私…嫌だよ。

自分のせいで誰かが傷つくのなんて、見てられない。

だから、お願い…

お願いだから、これ以上…

これ以上、私に…。


「鳴海さん」


有ちゃんて呼ばれるのが嫌だと言ったら今度は苗字で呼んできた。

関わるなって言ってるのに、まるで聞かない。

どうしてそんなに庇うのか、分からない。


「やめてください…。お願いだから、かか…」

「何度お願いされても、おれ、断るから」

「なんで?なんでそんなに?私が可哀想だから?可哀想な子を助ければもっとモテるから、とか?」


彼は首を振る。

左右に大きく振って、私の頭に手のひらを乗せた。


「鳴海有の笑顔を見たいから。おれが、1番近くで」
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