青の葉の、向かう明日。
ーーバサっ…。


音の方を振り返る。

あっ…。

私は思わず息を飲んだ。


「江波くん、大丈夫?」

「おい、江波、しっかりしろよ」


彼の周りに人集りが出来て、いつの間にか教室内の高波は穏やかになっていた。

広がっていたプリントの海があっという間に消えていく。

それなのに、私の胸はまだ凪いでいなくて。

気がついたら彼の背を目で追っていた。

ずっと、ずっと追いかけて、

やっと追いついた、

通い合った、はず、だったのに…。

溢れていった、泡沫の幸せ…。

もう、キミは忘れてしまったのかな。

全部自業自得だけど、

でも、せめて、

せめて、キミだけはって、

思いたかった。

思いたかった、んだよ…。


「まだ…好き、なんだ」


頭上から降って来たのは、まだ聞き馴染みのない声で。

どこか、寂しそうな声で。

それなのに私は…


「好き、じゃ、ダメ…なの?」


そう問うてしまった。

唯一私を信じてくれると、無条件に言ってくれた彼に、清澄くんに、そう言ってしまった。


「いいんじゃね、別に」

「え?」

「好きって、そう簡単に消えるものじゃない。強く長く思っていればいるほど、なおさら」


じゃあ、また後で。

清澄くんはそう言い残すとさっきまでの息張った態度とは裏腹にすごすごと席に戻っていった。

私の秘密、

私の気持ち、

いつになったらちゃんと言葉に出来るのだろう?

教えてほしい。

いつもキミが導いてくれたみたいに。

もう一度、

たった一度でいいから。

こっちを見て、

振り返って、

笑って。

ただ…笑って、

晴くん。
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