青の葉の、向かう明日。
それから日常は驚くほど穏やかに過ぎていった。

私が起こした事件を追及する者もおらず。

というよりは、クラスで一目置かれている男子2人がその事件の張本人と深い関係にあるということもあり、変に傷口に唾を塗ることも出来ず、自然治癒みたいな感じで時が流れていったと言うのが正しい。

私としては事件に関して納得してないこともあるし、一度当事者間で話し合いたいというのが本音ではあるけれど、彼女は退院してからもずっと不登校だからなす術なしである。

ならば、このまま自然風化を待つしかない。

波風立てず、過ごし抜く。

受験さえ受かれば問題なし。

そう、思っていたのに…。


「鳴海さん」


…うわ。

また、だ。

今日も、か。


「んだよ、その顔。そんなにおれのこと嫌いなわけ?」


私が虫でも見るみたいな目で彼を見ると大抵こんなことを言われる。

だって毎日、一緒に帰ろう、とか、塾行こう、とか言われるんだよ?

今の今までそんなこと一度もなかったのに。

やはり弱ってる女子の心に付け込んで堕とそうという魂胆だな。

清澄くんと付き合いたい女子なんてごまんといるはずなのに、わざわざ私を選ぶんだから性根が腐ってるとしか言いようがない。

あんただけを信じてる、みたいなことを言われて一瞬舞い上がったというか、私も彼に心を許そうとしたけど、そんなの誘い文句みたいなものだ。

簡単に落とされてたまるか。

なんて意地を張ってる私と彼との攻防が日々行われている。


「ゆーう」

「話しかけないでください」

「鳴海さーん」

「…着いて来ないでください」

「んじゃあ、なるちゃん」

「…」

「なるゆー、とか?」

「…」


無視を決め込み、スタスタと小走りをして校門までやって来た。

後ろを振り返る。

彼はもう追って来ていない。

よし、このまま帰ろう。

今日は塾もないし、彼に会うこともない。

なら、もう大丈夫。

大丈夫、だ。

家も地獄だけど、学校よりはマシ。

7畳の自分の部屋だけが唯一無二の天国。

天国まであと1時間…頑張らねば。

耳にイヤホンをし、英会話を流す。

外界の音をシャットダウンし、集中する。

受験を成功させて東京に行く。

新しい世界に踏み出す。

こんな息苦しい世界から飛び出す。

私なら…出来る。

大丈夫、だから。

そう言い聞かせながら、バス停への道のりを急ぐ。


と、その時だった。
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