王子様のないしょ話 ~僕は初恋の彼女を溺愛する
 その直後彼女が部屋から出てくると、そのまま走り去ってしまう。

 いつも公爵家のご令嬢として、完璧なマナーを誇ってきた彼女らしくない、豪快な走りっぷりだった。

 部屋に残された妻と、他の親衛隊の面々は、いたたまれない雰囲気となり、そのままなんとなくお開きになったようだ。


 さぞや怖い思いをしただろうと妻をねぎらうと、予想に反し、彼女は目をキラキラさせて言った。

「私、いつかあの方と、お友達になれそうな気がします」と。

「女の敵は女、でも女の味方も女なんです」
だそうだ。

 妻の勘では、あの公爵令嬢は裏表のない真っ直ぐな人柄で、その勢いのある雰囲気は、彼女の妹、つまり元々シンデレラであった少女に少し似ているらしい。

「私きっと、あの方とうまくやってみせます!」

 ああ我が妻は、何と寛容な心と勇気の持ち主なのだろう……!

 早速、妻を形容する言葉として『愛らしい』と『賢い』に、『寛容』と『勇気』を付け加えねばならない。

 ……で、我が愛する妻よ、何故私の服の裾を引っ張るのだ?
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