外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「チケットは俺と行かなくてもいいので誰かを誘って下さい。先輩、お好きでしたよね? Crockett (クロケット)」

「好きだけど……あなたのチケットなんだし。他に誘う相手は?」

「思い当たる人は居ません。俺1人ならコンサートへ行く気はないです」

 男性アイドルグループCrockettの曲を聴くのは唯一の趣味と言ってもいい。本当はファンクラブ会員でも入手しづらいチケット、喉から手が出るほど魅力的だ。

「それじゃあチケット代を払う」

「要りません、と言うより俺も頂いた物ですから貰えません。いつも頑張っているご褒美だと思って受け取って欲しいです」

「頑張ってるのは花岡君も同じでしょ?」

「そうですか。なら頑張っているご褒美という事で、コンサートご一緒してくれます?」

 見事な会話術、いや誘導尋問にたじろぐ。

「あっ、そうだ! 今回は混雑が予想されるのでハイヒールは避けた方がいいでしょう」

「今回って……次もある様な言い方して」

「円滑なコミュニケーションを取る為にも、親睦を深める機会は何度あってもいいと思うんです」

 にっこり微笑む花岡君。

「熱心に教育指導して下さいますが、まだ俺と先輩には距離がありますよね?」

 彼の魂胆が分からず身構える。すると照れた風に襟足を掻いてみせた。

「深山先輩と出掛けたいと言ったらご迷惑ですか?」
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