外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
『えー! それってデートのお誘いじゃん!』

 瞬間、同期の言葉が過ぎる。

(花岡君はわたしより6つも歳下。デートは同年代を誘うはずか)

「距離があるって言うけどここは職場。馴れ合う必要なんてない。公私をきちんと線引し、なぁなぁな関係にならないようにすべきよ」

 人差し指を立て語る。

「仕事は仕事、プライベートはプライベートで切り分けるという意味ですか?」

「えぇ、そうね」

「ーーでは勤務時間外に先輩と接する時はカジュアルでいいんですね」

「は?」

「当日は宜しくお願いします!」

「え?」

 花岡君は会釈し、会話を一方的に切った。追い掛けてやりとりを続ける事は出来なくないが、わたしだっていつまでも油を売っていられない。
 後ろ髪を引かれつつ、彼と反対方向へ踵を返す。

(不意をつかれたとはいえ、会話の主導権握られちゃったな)

 教育係として彼の成長を逞しく感じる一方、先輩スタッフとして襟元を正さなくてはいけないと気合を入れ直す。

 わたしの進む販売道は華やかじゃなく、例え遠回りだとしても一歩一歩進んで行くしかないんだ。

(頑張ろう!!)

 バックヤードから売り場へ繋がる扉を開く。

「いらっしゃいませ」

 一礼しフロアへ入る。優雅なクラシック音楽が流れ、商品をより魅力的に輝かせる照明が注ぐ。

 ここがわたしのフィールドであり、戦場。
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