外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 自分で言った手前、反論しづらい。花岡君がわたしの相手をしても売り場は回りそうなので誰も止める気配はなく。

「先輩ーーいえ、深山様はどのような商品をお探しですか?」

 どうやら彼は本気の接客を仕掛ける気だーーであれば、こちらも付き合おうか。最近、側について教える時間が取れないので復習の意味を込めて応じる。

「えぇ、コンサートへ着ていく服を探しているの。動きやすくて、でもカジュアル過ぎないものがいいなぁ」

 接客には幾つかの工程があり、販売員はまず対象のお客様がどんな服を求めているか聞き出す。わたしの場合、コンサートへ着ていく服となる。

 婦人服売り場はテイストで区切られていて、わたしはオフィスカジュアルと分類されるスタイルを好み、スカートよりパンツ派。身体にフィットしたシルエットを選ぶ。

「いいですね! コンサート。動きやすいと仰いますとペンライトを振ったりするんですか?」

 花岡君は動きやすいとの注文を聞き逃さない。会話をしながら目当ての区画へ移動を促す。

「行けるとは思ってなかったからツアーグッズ揃えてない。公式が発売したペンライト、買っておけば良かったな」

 Crockettのファンであると声高に主張はしないが、好きなものを隠すつもりもない。

「推しのメンバーって誰かいるんですか?」

「え?」

 これまでわたし達はお互いを詮索してこなかった。個人的な話を全くしない訳ではなく、当たり障りがない程度を話すのみ。
< 14 / 46 >

この作品をシェア

pagetop