外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 彼は販売員、わたしがお客様役。その立ち位置が今の言葉で揺らぎそうになる。

(なんで花岡君が照れるのよ! 恥ずかしいのは服を新調する理由を知られた、わたしなんだけど?)

 咳払いをゴホンッとして、ずれてしまいそうな教育係の仮面を付け直す。

「いいから商品説明と提案した訳を言って」

「はい!」

 ここから滑らかな説明が始まり、表情豊かに語る所作に備わっている品性が加わる。

 花岡君もお坊ちゃまとまでは言わないが実家はお金持ちそう。
 彼はハイブランドのシンプルなシューズモデルを嫌味なく履きこなすうえ、食事の摂り方やコンサートへのお誘いもスマートだ。センスがいい。

(花岡君に服を選んで貰いたいお客様、多いだろうなぁ)

「先輩?」

「……ううん、何でもない。じゃあ、そちらを買うね。コンサートだけじゃなく通勤服にも使えるっていうスタイル提案、良かったよ」

 選んで貰った服は自分では選ばない色と形だったものの、抵抗感はない。それに少なくともこの服装でコンサートへ行けば花岡君の迷惑にならずに済むかも。わたしを連れ立つ事で恥をかかせたくない。

「ありがとうございます。でも」

「ん? でも?」

「お似合いになる品を選ぶのもいいですが、せっかくでしたら『俺』が着て欲しい品を選びたかったですねーーそれでは戻ります。お疲れ様でした、また明日」

 もはや言い逃げに近いスピードで花岡君が場を去っていく。
 らしくない振る舞いをされ、わたしは暫く動けなくなってしまった。
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