外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「花岡君は高額商品をバンバン売るし、お客様からの覚えもいい。販売員になるべくしてなったみたいな?」

「順風満帆に映りました?」

 テーブルの下で革靴とスニーカーのつま先が当たる。

「『白鳥の水かき』という言葉があるじゃないですか? 俺だって水面下で足掻いているんです」

 珍しい、弱気な主張だ。

「まず自分を白鳥に見立てる自信があるの、あなたには。きっとこれからも活躍する販売員になれる!」

 わたしが保証する、そんな意味合いでグーパンチを突き出してみた。

「真琴さんのお墨付きを頂けるのは光栄ですが、グータッチより」

 彼の方は小指を差し出す。

「約束? 何を?」

「大郷百貨店を一緒に盛り上げて行きましょう! それから」

「それから?」

「……」

 ここまで滑らかに語っておいて言い淀む。何を言おうとしたか気になり、わたしは頬杖つくと正面を覗き込む。次いで革靴をツンツン刺激する。
 心なしか、花岡君の顔が赤い。

「い、いや、やっぱり素面だと言い難くて」

「なら飲みなさいよ! わたしばっかりで全然飲んでないじゃない。すいませーん! おかわりを2杯お願いしまーす!」

 追加オーダーを元気よく承知する『喜んで!』が飲み比べのゴングとなるのだった。
< 25 / 105 >

この作品をシェア

pagetop