外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
「人前に出る職業なんだから身なりに気を付けなきゃ。荒れたり浮腫んだ顔じゃ、商品がかすんじゃう」

 ストレスで食べ過ぎるのは良くないし、ひとり暮らしが長いと食生活が偏りがち。変則的な職種と相まって太りやすくなる。

「……」

「今度は黙っちゃった。どうしたの?」

「いえ、先輩に販売して貰える商品は幸せだろうなと」

「ははっ、何それ?」

「冗談じゃないです。いっそ俺も売り出して欲しいくらいですよ」

 先に食事を終えた彼は席を立つ。先ほどのやりとりで完食しにくい丼をちらりと見やり、フォローを添えてきた。

「先輩はいつもキレイです。体調を気遣っただけで美容意識を疑ったんじゃありません。健康的に沢山食べて大きくなって下さい」

「ーー大きくって、これ以上はなりたくない」

「身長はいくつか聞いても?」

「165センチ、女性としては高い方でしょ? ヒールがある靴が履けないのが悩みなの」

「俺は180ですが?」

「それは花岡君に比べたら……」

「なら気兼ねなくハイヒール履けますね。では、どうぞ」

 サッとテーブルに何かを滑らせてくる。

 それがチケットだと気付いた時にはもう彼の姿は無かった。
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