外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する


「えー! それってデートのお誘いじゃん!」

「いやいや、行く場所がアイドルのコンサートだよ?」

「でもペアチケットなんでしょ? 別に同性のコンサートへ行ってもいいんじゃない?」

「まぁ、それはそうだけど」

 『大郷百貨店』は豊富な商品を扱う分、在庫を保管するバックヤードも広い。今、とあるお客様が所望される品を2人がかりで探しているが、なかなか見付からず苦戦中。

 もちろん手は動かしつつ、先程の話をしてみた。

「花岡君とデートなんて真琴もやるじゃん! 恋愛、興味無かったんじゃないの?」

「あっ、高い所はわたしが調べるから!」

 脚立へ乗ろうとした彼女を止めたのはーー妊娠しているから。
 1年前まで同じ売り場に立っていた同期は結婚を期に部署異動を願い出て、外商部で顧客管理のサポートをしている。

「ありがとう、気を付けなきゃね」

 まだ目立たない腹部を撫でる薬指が眩しい。

「あなたはこの棚を探してくれる?」

「分かった。ごめん、真琴も忙しいのに甘えちゃって」

「いいの、いいの、気にしないで! 在庫の在処なら入社8年目のわたしにお任せあれ!」

 同じ釜の飯を食うーーなんて古臭い言い方だが、苦楽を共にした彼女とは切磋琢磨し続けていけると思っていた為、売り場を離れる選択を寂しく感じてしまう。

 並ぶ棚の陰影に入り、ため息を噛む。
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