外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
 入社8年目ともなればベテランの域に達していると映るだろう。
 実際、様々な業務を任され、新人教育、担当売り場ではない場所への販売応援、それにこうした在庫確認等々。フレキシブルな働き方と言えば聞こえはいいものの、単に使い勝手の良いスタッフと表現した方がしっくりくる。

「そういえば今年も昇進試験受けるの?」

「一応。毎回、筆記と面接試験は合格するの。売り上げ実績が物足りないって言われちゃうんだ」

 視線は在庫へ向けたまま会話する。

「実績、か。真琴みたいにどんな仕事も嫌な顔せず引き受けてくれる人が一番売り上げを立てられるって訳じゃない、そこが現実よね」

 真理を突く返しに手が止まってしまう。

「あ! 真琴、あったよ! ほら」

 目的の品を発見し、こちらへ翳(かざ)す。わたしは脚立の上から親指を立てた。

「外商のお客様って滞留在庫を欲しがったりするんだねぇ。お金持ちの物欲、理解できないわ」

「こら、そんな言い方しない! 後は片付けておくから早く持っていって」

「うん、そうさせて貰う! ありがとう、助かったよ」

 手を振る傍ら、ほんの少しだけ胸が痛む。

(わたし、何で販売員になったんだっけ?)
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