外商部御曹司は先輩彼女に最上級のロマンスを提供する
今年で30歳。周りは仕事でポジションを得たり、家庭を築いたり。自分だけが足踏みしている感覚に陥る。前にも後ろにも進めていないんじゃないかって。
日本を代表するデパート『大郷百貨店 本店』に就職が決まった時、わたしだけでなく両親や友達も一緒に喜んでくれたのに。みんなの期待に応えられていない。
(この箱、懐かしい)
脚立を降りる際、紳士靴の箱が目に付く。開けてみれば玉手箱みたいに記憶が溢れてくる。
『配属希望は靴売り場です! わたし、靴が大好きなんです!』
遠い日に行われた採用面接でのやりとりが甦り、そっか、そうだったなと頷いた。志望動機を忘れたんじゃなく忘れた振りをしている。
(わたし、靴を販売したくて、この会社に入ったんだよ)
「ーーぱい、深山(みやま)先輩?」
その呼びかけに暫く反応出来ず、我に返った時は花岡君に覗き込まれていた。
当然、脚立は1人乗り用。彼は階段の途中まで足を掛けた姿勢で首を傾げ、こちらが驚いた拍子にバランスを崩しそうになるとすかさず手を差し伸べた。
「ちょっと危ないじゃない!」
大きくて温かい手に支えられるも、指摘が真っ先に口をつく。
「すいません、何度かお呼びしたんですが返事がなくて。もしかして体調が優れないのかと」
「だ、大丈夫だから。離して」
腰へ当てられた手を剥がし、脚立を降りるよう促す。花岡君を見下ろす事など今まで無かったからか、至近距離で見た顔立ちに対し妙な緊張が身体を巡る。
日本を代表するデパート『大郷百貨店 本店』に就職が決まった時、わたしだけでなく両親や友達も一緒に喜んでくれたのに。みんなの期待に応えられていない。
(この箱、懐かしい)
脚立を降りる際、紳士靴の箱が目に付く。開けてみれば玉手箱みたいに記憶が溢れてくる。
『配属希望は靴売り場です! わたし、靴が大好きなんです!』
遠い日に行われた採用面接でのやりとりが甦り、そっか、そうだったなと頷いた。志望動機を忘れたんじゃなく忘れた振りをしている。
(わたし、靴を販売したくて、この会社に入ったんだよ)
「ーーぱい、深山(みやま)先輩?」
その呼びかけに暫く反応出来ず、我に返った時は花岡君に覗き込まれていた。
当然、脚立は1人乗り用。彼は階段の途中まで足を掛けた姿勢で首を傾げ、こちらが驚いた拍子にバランスを崩しそうになるとすかさず手を差し伸べた。
「ちょっと危ないじゃない!」
大きくて温かい手に支えられるも、指摘が真っ先に口をつく。
「すいません、何度かお呼びしたんですが返事がなくて。もしかして体調が優れないのかと」
「だ、大丈夫だから。離して」
腰へ当てられた手を剥がし、脚立を降りるよう促す。花岡君を見下ろす事など今まで無かったからか、至近距離で見た顔立ちに対し妙な緊張が身体を巡る。